越後の名僧良寛は、ことば使いの心構えを説いた「戒語」を書き残しています。
ことばを単なるコミュニケーションの道具と見なすことを戒めて、言葉の湧き出る源泉に注目しているのです。
ことばを発するのは人間である。
人間の心の奥そこから自然に湧き出てくるのが本当のことばである。
本当の言葉には、人の運命を変え、人の行動を変える力がある。
その真のことばにふれたときに、その人の一生のコ―スが変わる場合がある。
良寛は、ことばには回天の力があるといっています。
ある時良寛の甥の馬之助が、厳格な父に反抗して、酒色におぼれて家業を顧みない。
説得をたのまれた良寛が、弟の家にやってきたが、なかなか切り出せない。
声をかけても甥の馬之助は、ふてくされてものも言わない。
良寛には、若い馬之助の寂しさがわかるのである。
この老僧にも若き日があったのだ、、、、、、。
二日、三日、四日と、むなしく日が過ぎていく。
とうとうたまらなくなって、何も言わず帰ることになった。
その朝、玄関で良寛は、
「馬之助、すまんがわしのわらじのひもを結んでくれぬか。年をとって手がふるえるでのう」
父に叱られてしぶしぶ馬之助が、わらじを結ぼうとすると、その手の甲にポトリ、あたたかいものが落ちてきた。
ハツと見あげると、良寛の目にいっぱい涙がたまっている、、、、、、。
そまま良寛は、山の庵(いおり)へ帰って行った。
それ以来、馬之介の乱行はピタリとやんだといいう。
一滴の涙が若者の冷え切った心に、ほのぼのした春風を送ったのであった。
心のふれあいとは、そういうものです。
今日も良き日でありますよう
湘南話し方センター
所長 松永洋忠